心霊学研究所
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書 名
イエス
著 者
安彦良和
出版社
日本放送出版協会
定 価
2000円(税抜き)
発行日
2003/03
判 型
A5判並製オールカラー
ページ数
408ページ
ISBN
4140054115
評 価
★★★★
本書は97年に上製上下二巻本として刊行されました。上記データは一冊に纏められた再刊本のものですが、書評は原本に依ります。

 

マンガですが、心霊学研究所でご紹介するのに相応しい内容であると自信をもって断言します(^^)

弟子のヨシュアの目を通して観たイエス・キリストの物語。熱心党(ユダヤ教の過激派)のスパイとしてイエスに取り入ったヨシュアは、行動をともにするうちに急速にイエスに惹かれていきます。しかし同時に、イエスの存在を利用しようとする勢力の存在にも気づくのでした。イエスたちの運命や如何に……。

『マルコ福音書』を下敷きに、イエス・キリストの伝道者としての活躍から十字架上の死、復活したとされるその3日後までが、安彦良和の卓越した筆力で描かれています。

普通こういう「歴史マンガ」「宗教マンガ」みたいなのは、いかにも3流漫画家の下手な絵が多くてイヤになってしまうものですが、これは違います。なにしろ、アニメーターとしては頂点を極めたと言っても過言ではなく、『アリオン』以降、漫画家としての実力も着実に付けてきている安彦良和の作品です。福音書の中のさまざまな名場面、たとえば姦通の罪で石打ちにされようという女を許す話などが、美しく、感動的に描かれています。

この物語の中で描かれているイエスは、既成キリスト教で言われているような神の子ではありません。それどころか、超能力や霊能力の事もはっきりとは描かれていません。つまり普通の人間として描かれているわけです。ですから、超能力や霊能力など超常的な現象には否定的な人間でも、非常にリアリティのある物語として読めるのではないかと思います。

『神の子』であるがゆえに偉大なのではなく、『奇跡』を起こしたから偉大なのではなく、その人間としての生き方、我々と同じ人間として生まれながらああいう人生を送ったという、それゆえに偉大だった人間として描かれているのです。

この物語の中でイエスは一度も奇跡を起こしません。その点はスピリチュアリズムの伝えるイエスとも、違うことは違います。しかし既成キリスト教と比べて、スピリチュアリストが尊敬し敬愛するイエスという人物像に非常に近いイエスが描かれていると思います。読みながら何度も胸が熱くなりました。

以下に引用する著者あとがきなどは、ほとんどスピリチュアリストの言葉と言っても通用するほど高い見識を感じさせるものです。

 イエスという人は、よく見える眼を持った良心の人であったと思います。超常的な能力というものが科学的に全否定されていない以上、イエスにそうした能力が無かったとは言いきれません。むしろ、多少はあったと思いたい気さえします。しかし、問題はそのような力の有る無しではありません。(中略)個々の奇跡のエピソードや、最大の奇跡である復活の部分はどうでもよい思えました。いや、どうでもよいどころか、イエスの死後その教えがパウロ達によって復活信仰へとすり替えられたことは大きな間違いの始まりに違いないと思えました。だから私のこしらえたこの物語は、大それた言い方を敢えてすればイエスへの共感とキリスト教への批判の物語なのです。(イエス[後編]あとがきより)

 

これはオススメです。ちょっと高いですが、ぜひ読んでみてください。また、作者の安彦良和氏の作品はどれも面白いので、これが気に入ったら、他の作品も読んでみると良いでしょう(^^)。

最後に、この本を紹介するにあたって相応しい、シルバーバーチの言葉をご紹介します。

誰の手も届かないところに祭りあげたらイエスさまがよろこばれると思うのは大間違いです。イエスもやはりわれわれと同じ人の子だったと見る方がよほどよろこばれるはずです。自分だけ超然とした位置に留まることはイエスはよろこばれません。人類とともによろこび、ともに苦しむことを望まれます。一つの生き方の手本を示しておられるのです。イエスが行ったことは誰にでもできることばかりなのです。誰もついていけないような人物だったら、せっかく地上へ降りたことが無駄だったことになります
(『シルバー・バーチの霊訓(5)』近藤千雄訳/潮文社刊 P.194)

初出:Nifty-Serve FARION『心霊学研究所』(3/23/98)


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