天狗界の探検に引き続き、私は指導役のおじいさんから龍神の修行場の探検を命じられました。 『いつだったか、龍宮界へ行く途中で龍神の修行場をのぞかせてやった事があったが、あれではあまりにあっけなかったね。もう一度あらためてあんたをあそこに連れて行ってやろう。あの修行場には一人の老練な監督者がいるから、わからない点があったら何なりと遠慮なく尋ねなさい。』 『その方も龍神さんですか。』 『もちろんそうだよ。でも私と同様に、人間と会うときは人間に化けているけどね。』 さて目的地は一度行ったことのある所ですから、道中の見物は一切抜きにして、一足飛びにあのものすごい龍神さんたちがいた湖水のほとりに着きました。この世界は遅く歩くのも速く歩くのもすべて自分の思い通りで、その点だけは実に便利です。 ふと見ると、水際の巨大な岩の上に、六十歳ぐらいに見える一人の老人がたたずんで、私たちが到着するのを待ち構えていました。服装なんかはだいたい私の案内役のおじいさんに似たりよったりで、若干肉づきがよく、年も二、三歳若いように見えました。もちろん彼が監督の龍神さんでした。 簡単な挨拶をすませてから、私は早速監督さんに話しかけました。 『修行場の様子は先日拝見しましたので、今日は龍神さんの生活について、いろいろ分からない事をお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。』 『何なりと聞いてください。研究のためだから、私もわかることは何でもお話するつもりなんで。龍神の世界は人間界とはずいぶん雰囲気が違うから、話を聞いてビックリなさらないようにね。』 あっさりとさばけた様子でお話してくださいましたので、私はいっぺんに安心してしまい、無遠慮に思いつくまま色々とお尋ねしちゃいました。その時の問答をすべてここでお話するわけにもいきませんが、あなた方のご参考になりそうなところは、できるだけもれなく拾い出してお話することといたしましょう。
問『現在でも龍神の子供は生まれていますか?』 答『人間界と同じようにこちらでもバンバン増えているよ。』 問『生まれたての若い龍神の体はどのようになっているんでしょうか?』 答『別に変わった体でもないが、人間からは幽体には違いないので見ることはでない。大きさは三尺(約90cm)ぐらいかなあ。でも伸縮自在なんで、大きさはあってないようなものだけどね。』 問『やっぱり蛇とは違うんですか?』 答『はは、蛇はもともと人間界の下級動物で、形も性質も資格も龍神とは全く別物だよ。蛇がいくら進化したところで、龍神に進化するわけではないんだ。』 問『龍神さんはやっぱり人間のご先祖なんですか?』 答『うーん、先祖といえば先祖なんだけど、むしろ人間の創造者といった方が当たっているかな。要するに龍神がそのまま人間に変化したわけではなくて、龍神がその分霊を地上に降《くだ》して、ここに人類と言う新しい生き物を作り出したんだ。』 問『現在でも龍神さんはそういったお仕事をなさっていますか?』 答『いや、これは最初の人類を作り出した時の、遠い太古の神業であって、今日ではもはやその必要はなくなっている。あなたも知っているとおり、人間の男女は立派に子作りしているではないですかな。』 きゃー。なんて赤面したのは私だけで、龍神さんはニコリともせず、正面から私の顔に鋭い一瞥《いちべつ》をくれたのでした。 |