心霊学研究所
『小桜姫物語』浅野和三郎著
('03.07.28)

六十七.神と人との仲介


 

 以上述べたところで一通り話の筋道だけはご理解いただけたことと思います。神に祀《まつ》られたなんていうとちょっと大変なことみたいですけど、中味は決してそんな大それた事ではありません。

 だいたい日本語が、肉眼で見えないものをことごとく「神」と言っちゃいますから、まぎらわしいんですよね。神といってもピンからきりまであるんですから。ことわざにも上には上があるなんて言いますでしょう。一つの神界の上にはさらに一段高い神界があり、そのまた上にも一層奥の神界があるといったように、どこまでいっても際限がないらしいんです。現在の私たちの境涯からすれば、最高の所はやっぱり昔から教えられているとおり、天照大御神様《あまてらすおおみかみさま》のいらっしゃる高天原《たかまがはら》の神界が宇宙の神界なんだそうです。そこまでは一心不乱になって統一すれば、私たちにも何とか接近できないこともありませんが、そこから奥はとても私たちの力では太刀打ちできません。指導役のおじいさんにもうかがってみたんですが、あんまり要領が得られませんでした。つまりないわけではないけど、限りある力量ではどうしようもないんだそうです。

 高天原の神界から一段下がった所が、われわれの住む大地の神界で、ここに君臨なさっているのが皇孫命様《こうそんみことさま》です。ここになりますとずっとわれわれと距離が近いせいか、祈願すれば直接神様からお指図を受けることもでき、またそんなに苦労しなくても神様のお姿を拝むことだってできます。もっともそれはある程度修行が進んでからのことで、最初こちらに来たばかりの時は、何がなんだか腑に落ちないことばかりでした。恥ずかしいんですけど皇孫命様があらゆる神々をご統率なさる中心のお方であることさえわかっていませんでした。『近頃の人間は幽明交通の道が途絶えているせいか、まるっきりだめだね。昔の人間にはそれぐらいのことは当たり前だったんだけどね。』指導役のおじいさんからそう言ってさんざんお叱りを受けちゃいました。私たちでさえすでにこうなのですから、現世の方々が戸惑われるのは仕方ないことかもしれませんね。これはやっぱりおじいさんがおっしゃるとおり、この際皆で大いにガンバって、霊界との交通を盛んにする必要があるようです。それさえできればこんな事は簡単に分かることなんですから。

 今さら言うことではないかもしれませんが、皇孫命様をはじめそのお指図の元に働かれている神々はみな活《い》き神様です。つまり最初からこちらの世界に活き通しの自然霊なんです。産土《うぶすな》の神は言うまでもなく、八幡様でも住吉様でも、それから弁天様だってそうです。結局ここまでが本当の意味での神様で、私たちのように帰幽後神として祀られるものは真正の神ではありません。ただ神界に籍をおいているというだけです。もっとも中にはずいぶん修行が進んだ立派な方もいらっしゃいますが、しょせん人霊には人霊だけのことしかできません。言ってみれば真正の神と人間との中間に立ってお取次ぎする役目が人霊の仕事と言えます。まあそんな風に考えていただければ間違いなさそうです。少なくとも私のような未熟者にできるのはせいぜいそんなことです。だから神社に祀られたからって、やたら難しい問題なんかを持ち込まれないよう、くれぐれもお願いいたしますね。精一杯お取次ぎはいたしますが、私程度の力なんかでは何にもできませんから。

 


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