心霊学研究所
図書室
('06.06.03)










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書 名
自分のための人生
著 者
ウエイン・W・ダイアー
訳 者
渡部昇一
出版社
三笠書房
定 価
520円(税込)
発行日
1984/11
判 型
文庫
ページ数
318
ISBN
4837900216
評 価
★★★

 

某所で紹介されていたのに触発されて、こちらでも紹介。原書は1976年初版で、この翻訳本も1984年に出版。ベストセラーでしたし、ご存じの方も多いでしょう。これがいまだに売れているんですから、非常に息の長い本ですね。もっとも僕が本書を読んだのはつい最近、訳者の渡辺昇一先生を保守思想家として注目(月刊Willとかで)するようになってからですが(^^;。

ダイアーの考え方は「自分の力で何とも出来ないことに思い悩むのは止めよう」「運命は変えられないが、その中で誰もが幸福であることはできる」「幸福は自らの外部ではなく内部にあって感じるものである」というもの。これはスピリチュアリズムと全く同じ考え方です。例えば次の一節。

 自分が好きだから、ありのままの自分を受け入れる。同様に世の中のものごともそのまま受け入れる。現在と違うふうであってほしいなどとは思わない。暑さや雨など自分の意志で変えようもないことについて愚痴をこぼさない。自分と世の中をありのまま受け入れて、ごまかしたり、不満を言ったりしない。(P.298)

これはシルバーバーチおよびスピリチュアリズムのみならず、アメリカインディアンや、日本のかんながらに通じる考え方とも言えそうです。日本の保守思想家である渡辺昇一先生がダイアーを紹介しようと思ったのもうなずけます。

この辺り、ホンの表層だけなぞればバシャールなどと似ているように見えるかも知れませんが、実はまったく違うんですよね。ニューエイジの世界の教えは「自分の力で変えられないことなどない」「運命は変えられる」というものですから。根本的かつ肝心なところで、決定的に食い違っているわけです。

 彼らは失敗を恐れない。実際、失敗を歓迎することすらよくある。仕事でりっぱな業績を残すことと、人間的にりっぱであることは別のことであると考えている。自分の価値は自分の内部にあると思っているので、外部のできごとはそれが有効で有益なものであるか否かという基準だけで客観的に判断することができる。
 失敗というのは他人の一つの批評にすぎないことを、また、失敗してもそれは自己の価値を損なうものではないから恐れる必要がないのだということを知っている。楽しいから何にでもトライするし、参加する。事を恐れず、はっきりとしたものの言い方をする。
(P.300)
心にわだかまりのない人は、とりこし苦労をするということがない。  彼らとて、いついかなるときも冷静でいられるわけではないが、自分から進んで将来のことについて苦悩しつつ現在という時を過ごすことはしない。(P.302)
彼らが求める人物というのは、自分から進んで人を頼らないようにしている人間であり、自分の意志でものごとを決定し、自分の力で自分の人生を生きているような人間である。(P.305)

これなどまさにシルバーバーチそのもの。何が起ころうがへこたれず、自らの意志で道を切り開く。苦難(と傍からは見える事柄)も決して苦痛ではなく、成長のためのプロセスとして楽しめる。決して先のことを思い煩うようなことはしない。(ただし、とりこし苦労をしないのと今だけ考えて刹那的に生きるというのとは違います。「将来の計画を立てることが、よりよい未来のために役に立つとしたら、それは不安とは言えない。(P.156)

成長を動機づけとして選択すれば、必然的に人生の現在という時をすべて、自分で支配できるようになる。つまり、自分が自分の運命の決定者となれるのだ。人と張り合ったり、やっきになったり、世間に調子を合わせたりすることはない。むしろ、まわりの世界を自分に合わせて選ぶのである。(P.67)

ニューエイジャーはこの記述を「願うことで世界の事実も変えられる」と解釈してしまうでしょうね。彼らは自分が読みたいように都合よくしか読みませんから(もちろんそうじゃない人も少しはいます、たぶん……日本に3人ぐらい?)。しかし、ちゃんと読んでいれば、自分が変えられるのは事実ではなく、それを解釈する自分の内面であることが分かるでしょう。そして、内面が変わった自分の行動によって、自分の現実も変わって行くということです。この本を読んでバシャールと似ていると思うか、シルバーバーチと似ていると思うかで、その人のシルバーバーチ理解の深さが計れるんじゃないかと思ったりします。

もっとも、大ベストセラーになったダイアーの著作群などが、バシャールの「ワクワク」理論のヒントになった可能性は少なくないように思われますし(両者の時系列的にも)、これがバシャールと似ているという感想を抱く人がいても、それはそれで正しいのではないか、とは思います。

ただバシャールは、新味を出すためか自己顕示欲からか、はたまた信者を引き付けるためか、肝心な前提の部分を隠蔽してしまったということですね。それで、そのために生じた綻び(つじつまの合わない部分)を取り繕うために捻り出されたのが「多次元」とかいう概念。ダイアーは(もちろんスピリチュアリズムも)、こんないかにもブサイクな概念は必要としません。至ってシンプルです。

自己啓発なんて言うと反射的に馬鹿にしてしまう人もいるかもしれませんが(僕とか(^^;)、シルバーバーチを読んで厳しいところしか感じられなかったような人などが補助的に読まれると良いかもしれません。案外理解の助けになるんじゃないかな。

初出:『スピリチュアリスト日記』2006.05.04


ダイアーについて、ある人から少し情報がありました。どうもその後の著作を見ると、なんかちょっとヤバめな雰囲気だぞ、ということで。

ダイアー博士のスピリチュアル・ライフ―“運命を操る力”を手にする「7つの特別プログラム」
ウエイン・W・ダイアー(著)、渡部昇一(訳)

●うつそのものは存在しない(気の滅入る考えを抱いている人がいるだけ)
●絶対に嘘を吐かない人は、病人に「あなたは元気だ」と言うだけで病気を治せる。

こんなことを言っているらしい。……うーん、どうなんでしょう。M・H・テスターが言っているのと同様の真っ当なことを言っているようにも見えるし、ちょっと逝っちゃってるような感じもするし。本が売れすぎると極端な方向に行ってしまう人も少なくないので悩ましいところです。

まあ、僕が推薦したからって無批判に信じ込む人はいないと思いますが、読まれる方は少し注意して読んでいただきたいと思います。イカレたことが書いてあったとしても僕は責任持てませんから(´・ω・`)

初出:『スピリチュアリスト日記』2006.05.11

 


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