付録 国際スピリチュアリスト会議(International Spiritualist Congress)の概況
三、各種の講演
大会の三日目、九月九日(日曜)は休日にもかかわらず非常に盛りだくさんな日で、午前十一時からは、ロンドン市内で最も有力なスピリチュアリスト教会の一つである『グロートリアン・ホール』に行って、英国風のスピリチュアリスト教会の様子を見学しました。大体において、普通のキリスト教会のやり方を折衷したもので、最初に賛美歌があり、次にスメツバード夫人の祈願があり、その内容は、普通の教会の“型にはまった迷信深い説教”とは雲泥の違いですが、形式的にはいささかキリスト教的な臭いが強いようでした。が、最後に、ロンドンで一流と目されるロバーツ夫人の霊視能力の実験があり、これだけは“これぞスピリチュアリズム!”と誇るべきものでした。夫人は舞台の上で少しの間黙祷して精神統一をしたうえで、さっそく会衆の一人の婦人を指し、「あなたのかたわらに、一人の男性の霊魂が来ております。年齢は六十七か七十ぐらいです。名前はジョンと言っています」というふうに、帰幽した人物の姓名や風貌を正確に描写し、かつ先方からの通信を取り次ぐのです。この日の集会に来た人たちは、世界各地の寄せ集め、もちろん夫人とは今日初めて会う人ばかりですが、十人ばかりに対して指摘したところは、ひとつひとつが事実に合致し、大変な満足を与えるものでした。中には感極まって、ボロボロ泣き出す婦人なぞも見受けました。内容の深みに於いては、それほどとも思いませんが、その正確さと、それが誰でも見学できることは、さすがにベテランのスピリチュアリストであると感心させられました。夫人の能力に関しては、他日筆を改めて紹介することにしましょう。とにかく夫人は、約一時間にわたって十分にその能力を発揮した上で実験を終了し、最後に全員で再び賛美歌を歌って閉会したのは、午後一時頃でした。 午後は『バッターシィ公会堂』で、児童へのスピリチュアリズム教育の実演の公開ということでしたが、残念ながら時間の都合で欠席、午後八時から『クインス・ホール』の大食堂で開催された、コナン・ドイル氏のスライド・プロジェクターを使用した講演にのぞみました。これはわれわれスピリチュアリストのみならず、一般にも公開したものなので、会衆は四五千人にも上ったことでしょう。各種各様の心霊写真を、プロジェクターで大型のスクリーンに写しながら、ドイルさんが暗い演壇に立って説明するという一般向きの講演で、われわれにはさほど目新しい写真とも、材料とも思えませんでしたが、民衆の教育という点からは、おそらく相当有意義で、その点多少は参考にすべき点がないではないと思われました。 翌九月十日(月曜)。今日からいよいよ各国代表の講演の幕開きです。部門を三部に分け、第一部が科学、第二部が哲学、第三部が組織という分け方です。三部門とも別々の部屋で同じ時間に開かれることになっているのですから、われわれは止むなく、自分の好きなものを一つだけ選んで聞かねばなりません。講演が主要なる目的ではなく、各国代表の顔合わせと、意思の疎通とが目的であるところの大会として、これはまさしく最適な方法でしょう。とりあえず私は第一部の科学のところへ入って、パリのマーティ氏の『心霊現象と霊磁気力との関係』という論文、ならびにグラスゴーのマッキンドウ氏の『直接談話現象の研究』と題する講演をききました。前者は面白くはあるが、少々未完成という感じがしました。これに反して後者は全部実験の上に立っているので、かなり参考になるところがありました。機会を得て紹介することにしましょう。不思議な縁で、私はこのマッキンドウ氏とは、非常な親交を結ぶことになり、大会終了後は、同氏に引っ張られて、はるばるグラスゴーに行き、一週間そこに滞在して講演を行ったり、直接談話の実験を行ったりしました。それは項を改めて別に書くことにして、大会の報告に移ります。 午後の各部会の講演が終わると、約二時間、夕食のための小休憩があり、午後八時から、いよいよ今度の大会の目玉とも言うべき、各国代表の報告講演が催されました。議長席には、例のコナン・ドイル氏が就き、そのまわりには幹部たちが集まり、さらにその左右に分かれて、われわれ代表者が二十余人並ばされましたが、その中でインドの代表リシイス氏が、桃色のターバンをグルグル巻きにしているのは、珍しいながめでした。人数が多いために、各自の講演時間が極端に制限されたのは、誰にとっても惜しいことでしたが、とにかく各自やるだけのことはやりました。ドイツ、ベルギー、アルゼンチン、アメリカ等と、順々に続いて、八番目か九番目に私の順番になりました。私の演題は『近代日本におけるスピリチュアリズム』と題したもので、印刷にすれば相当に長いのを、切りつめ切りつめ、短時間にドウやらまとめました。私は簡単に日本の神道の由来性質を説き、主要な点において、日本神道が近代スピリチュアリズムと全く共通であることを述べ、明治維新以降、極端な唯物主義の跋扈のもとにありながら、神霊の威力が、依然として日本国内に発現する事実を物語りました。 「人間界の方でいかに霊界を無視し、霊魂の存在を否定すべく試みても、霊界の方では相当活動を続けているものと見え、優れた霊能者、優れた霊的事実は、最近数十年間に、いくつもいくつも日本国に現われました。私はそれらの代表として、ここに長南年恵嬢について簡単に説明したいと思います。彼女は修行によって人為的に出来上った霊能者ではなく、生まれつきの優れた霊能の持ち主でした……」 私は積極的に、彼女によって現われた前代未聞の霊的事実を列挙し、なかでも数十本の空きビンの中にいっせいに各種各様の水薬が引き寄せられた事実を話しますと、会場の全員が固唾をのんで聞き惚れました。それから日本における心霊研究の実情について簡単に述べ、福来博士が念写の研究によって、いかに学府の迫害と、世間の誤解を招いたかを説き、最後にわが心霊科学研究会創立以来、いかなる方針で、心霊学のために尽くしつつあるかを説いて壇を下りました。時間の都合上、やむなく私は早口で喋りましたが、要所々々にいたると、拍手がさかんに各方面からおこったところを見れば、そうとう外人の耳にも理解できたものと見えます。あとでオーテン氏その他に、「分かったか」と聞いてみても、「一言一句全部分かった。実に上出来だった」などと誉めてくれました。半分以上お世辞と見ても、まず無事にすんだ方でしょう。英米二国の代表者は、英語が最初からお手の物ですから別格ですが、他の国々の代表者の英語演説の中には、私がきいてさえも、ずいぶん分かりづらいのがありました。 ともかくこんな具合で、当夜の各国代表の講演会は、非常に盛大に終りました。なお当夜幹部側が気をきかせ、遠来の福来博士のために、特に数分間の挨拶の辞を述べることを許し、念写に関する英文のパンフレットを配布してくれたことは、特筆すべき好意の現われでありました。 |