心霊学研究所
欧米心霊旅行記
('04.05.15)

付録 ご挨拶にかえて所信を披瀝す
欧米旅行から帰って


 

 私は昨年末十二月二十一日に、無事帰国致しましたが、今回の海外旅行中に、私が格別意外に感じたことなどは、ほとんど無いと言って良いくらいでした。が、みずからかの地においてその実地を調べてみて、かの地の人たちの、概して霊的知識に深い理解をもっていること、またかの地に起こる心霊現象がなかなか豊富で、そして信頼性の高いことなど、つくづく感心致しました。ドウも公平に観察して、心霊科学の基礎は、立派に欧米人の手によって完成されたと言って良いようで、遺憾ながらその点では、日本は五十歩も百歩も遅れています。欧米の心霊学界と、日本の霊術界との相違は、ちょうど正規の医学界と、売薬業者との違いぐらいに相当するでしょう。

 すでに出発点の基礎工事が、それくらいに段違いであるだけあって、霊的事実に立脚して築かれたかの地の人々の思想信念ならびに言動には、なかなか立派なものがあります。少なくとも、欧米の社会において、正々堂々とスピリチュアリストと名のる人たちの中には、その学識から言っても、またその品性から言っても、全ての人のお手本として恥ずかしからぬ人たちが、すでに少なくありません。中でも私どもが特に敬服にたえないことは、彼らがあくまで謙譲の美徳に富み、あくまで紳士的態度を執りつつあることで、真理のためには、いくらでも堂々の論陣を張ることを辞しません。ましてや自ら偽りの称号を名乗って、キリストの再臨と称したり、自分は誰々の高弟であると号したり、自分の守護霊は何々の命《みこと》であるなどともったいぶったり、自分の言うことには絶対に間違いはないなどと手前味噌を並べたり、自分の手に負えないものは不信心者呼ばわりしたりするような、そんな幼稚愚劣な言行をわざわざする者は、一人も見当たらないようです。これはどういうことかと言えば、彼らと我々との間ではかなり段階が違うということです。ちょうど桧舞台の千両役者と、掘立《ほったて》小屋の緞帳《どんちょう》役者との違いぐらいに相当するでしょう。

 このように言いますと、いかにも悲観的な、そしていかにも欧米に降参したように聞こえるかも知れませんが、私はそんなつもりは毛頭ありません。このように日本が一時的においてけぼりをくったのは、元々の本質的な劣悪からではなく、主として国家社会の必要から、いままで心霊方面をなおざりにしてきたまでのことで、これからしっかり目を覚まして、猛然として奮起すれば、十年の後には、決して欧米諸国に見劣りのせぬところまで、こぎつけることができると信じます。その順序や方法については、いろいろ考えていることはありますが、それは皆さまのご指導をいただいて、十分に練り上げた上でおいおい発表するとして、目標は大体は次の諸項目に分かれましょう。

一 心霊現象の科学的研究----これをやらないことには、実験抜きで理化学の権威が築き上げられないようなものです。もしも日本で、これに適した良い霊媒が得られないならば、外国から招待することになります。私の手で話をつけておいた名霊媒は、米国にも、英国にも相当多数に上ります。
二 霊媒能力の実地応用----病気治療、物件捜査、創作、遠距離通信、霊的調査など、人間の実生活に役立てるべき方向の開拓で、そちらの方で成果をあげられるようでなければ、この仕事はまったくダメでしょう。北米などは物質文明の国と言われておりますが、私の見るところによれば、それは表面的な見方で、北米の物質文明の奥底には、霊的能力が最も有力に働いているようです。機械の発明でも、政策の樹立でも、文芸作品でも、つまりは霊界の指示が元で、それを工夫して物質の上に作り直したものと認められるのです。この点に気がつかぬ間は、日本はどこまでも模倣国、輸入国、泥棒国たる誹《そし》りを免れますまい。このさい一人よがりのお国自慢などをしているべきではありません。
三 堅実なる思想団体の樹立----すでに多くの霊的事実が科学的に証明された以上、これを基本として日本国の思想をまとめていくべきです。貧弱な証拠、科学的に証明のできない証拠を振りかざして、独断で固めた主張を押し売りしようとしたところで、それでは到底世界に通用しません。ご承知のとおり、学会有数の識者が最近数十年来の精緻なる研究の結果、広く世界を通じて一致点を見出したのが、いわゆるスピリチュアリズムで、それは七ヶ条に結晶しています。これに合致するものが、初めて世界の識者の間で発言が認められますが、そうではないものは、結局その仲間外れになるよりほかに仕方がないと思わねばなりますまい。幸いに日本には古来よりかんながらの道、古神道なるものがありまして、あまり人為的工夫を加えていないだけ、この古神道が一番よく二十世紀のスピリチュアリズムと、主要な点においてピタリと一致しているようです。この点は、われわれ日本人として、何より幸福な点で、日本の古神道は、今日において初めて世界に仲間を得た感があります。私は日本人としては、ぜひとも古神道をひっさげて、世界のスピリチュアリストの大同盟に参加すべきだと痛感します。しかし同時に、世俗の一般的な神道には、永い年月の間に、ずいぶん不純な要素、迷信的要素がくっついていますから、それはできるだけ整理をして、科学的にも、哲学的にも、一点スキのないものにせねばダメだと思います。

 以上の大目的を遺憾なく遂行するのは、なかなかの大仕事で、本邦各方面の識者諸氏の、奮起声援を待つよりほかに途がありません。無論そのためには、いろいろの機関が必要です。現在私どもの有する、この薄っぺらな機関雑誌と、臨時に間に合わせに用意する不完全な実験室、講演室では、ドウにもしようがありません。これでは世界に向かって合わせる顔がありません。現代の国民が、いかにこの大問題を解決するかによって、おそらく今後における日本国の価値が決まりましょう。私は現在の日本国が、一時も早く、首尾よくこの難関を突破することを切望して止みません。

 帰国早々、大変やかましいことばかり申し上げて、はなはだ恐縮千万ですが、私の胸の中は、今やこんな考えでいっぱいで、まずこいつをブチまけた上でなければ、他に何を申し上げる心の余裕とてもありません。くれぐれもお察し下さるよう願います。(四、一、五)

 


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