心霊学研究所
kaleidoscope
('01.01.03作成)

かけがえのない日々に……
亡き友に捧ぐ


 

これはスピリチュアリスト日記で続けて書いていたものですが、日記の過去ログのコーナーより、こちらのほうが適当だと思い移動しました。

 

 

'00.12.13
かけがえのない日々に……(1)

なんでこんな事になってしまったんだろうなぁ……。

あの頃はお互い楽しかったよね。いつも君の家や僕の下宿で、芸術のこと、心霊のこと、将来のこと……侃々諤々の議論を戦わせ、朝まで語り合ったものだった。馬鹿な冗談ばかり言い合って、回りの人間を呆れさせたこともあったっけ。お互いに全然似てるところの無い凸凹コンビ。だけど、それがまた良かったんだろうね。……楽しかったなぁ。

今となっては笑い話だけれど、最初に僕らが出会った時、君は“悟りを開いている”と自称していて(GLA出身のSさんに言われていたんだっけ?)、馬鹿なことに、僕はそれをほとんど信じてしまった。でも、君の心霊治療の能力は紛れもない本物だったし、少なからずエキセントリックな言動も、いかにも霊能者らしくて……当時の僕に真贋が見分けられなかったのも無理はない、と、思う。まだまだお互い若すぎて、知識だけはたくさん(たぶん、今よりも豊富に!)あったけれど、経験は不足していたから……。

それからは僕が弟子のようになって、二人で精神統一をしたり、行く先々で心霊治療をしたり……。そうそう、年配の方にいきなり紙とペンを差し出されて「何かお言葉を書いて下さい」とか言って拝まれた、なんて事も……。いきなり生き神様扱い、あれにはまいったよな(笑)。

 


'00.12.15
かけがえのない日々に……(2)

そして僕が間違いに気付き、“悟り”を否定した時も、君は冷静に聞いてくれたものだった。あの時は長いこと話し合ったよね。その時は辛かったけれども、今となっては良い思い出だと思う。君が「自分に対する批判」を受け止める度量のある人物だと判って、嬉しかったよ。

だけど、心霊に関してはどうしても正道から外れる傾向があって、ずっと心配はしていた。なまじ霊的な力が強いだけに、関わり方を間違えた時の反動が大きいであろうことが、容易に予想されたからだ。

その心配が現実になり、君が最初に精神病院に入院した時も……嗚呼、僕は、あんなことをやっては絶対にダメだと、何度も何度も言っていたのに……。それから、何度も入退院を繰り返して……時には良くなったように見えた事もあったけれども、少しずつ、しかし確実に、君は悪くなって行ったのだった。

 


'00.12.18
かけがえのない日々に……(3)

今思えば、君の状態の悪化が止まらなくなったのは、障害者として年金が出るようになり、仕事をしなくても暮らせるようになった頃からだったように思う。その頃には既に離婚もしていたし、その上、年金という安定収入を得て、職探しや仕事など、他人と交わることをする必要が無くなってしまった。

……それからの詳しいことは僕は知らない。君の話す内容は支離滅裂なところが多くなってきていたし、電話で何十分も話していても、正直なところ、何を言っているのか、僕には判らなくなってきていたから……。(何を喋っているのか判らない相手と----たとえそれが友人であったとしても----延々何十分も電話をするのがいかに苦痛であったことか、今なら君にも判るだろ?)

そんなこともあって、この半年ほど、君から電話がかかってこないのを良いことに、こちらからも連絡を取っていなかった。寂しがっているだろうとは思っていたけれど、仕事や日々の生活に追われて、君への連絡は後回しになっていた。

そうだ、年賀状でも送って、年が明けたら久々に遊びに行ってみるか。……そんなふうにのんびりと考えていた頃、君が、自殺した、という連絡を受けたのだった。

 


'00.12.19
かけがえのない日々に……(4)

驚きは無かった。以前にも自殺未遂の話は聞いていたから。

いや、自殺未遂の話ではないんだよな。死ぬつもりなど無かったんだろう? あの時も君は確か「死のうとした」とは一度も言わなかった。そうだ、「薬を飲みすぎちゃって……」と言っていたよね。だから今回も“自殺”なんかじゃなく、病気のせいで、錯乱したまま薬を飲んでしまった“事故”だと、僕は信じている。

以前、君に「自殺なんかしたら絶対に許さないし、悲しんでもやらないぞ」と言ったことがあったよね。……ゴメン、あれはウソだ(笑)。通夜で、葬式で、君の骸と対面した時、悲しくてたまらなかったよ。君は寂しがりやで、話をするのが好きだったから、いろいろと話してあげたかったけど、言葉が出てこなかったよ。

そうだな「何でこんなことになってしまったんかなぁ」 そんな意味のない言葉だけが、頭を回っていた。だから今、その時の代わりに、ここにこうして書いている。この場所には霊界の意思が働いているから、ここに書けば君にも届くだろうと思って……。

 


'00.12.22
かけがえのない日々に……(5)

僕らが初めて会ってから12年。いろいろとあったよね。でも、今思い出すのは楽しかったことばかりだ。いや、どんな事も、全て善い思い出に変わっているよ。本当に、本当に、楽しかったよね。それなのに、何でこんなことになってしまったのかなぁ……。生きていれば、もっともっと楽しいことが、いくらでもあったはずなのに。

判ってるはずだろう? 自殺なんかしたって、もっと苦しい所に行くだけだって。そりゃね、スピリチュアリズムでは、死ぬことはこの世からの“卒業”で悲しいことでは無い、喜ぶべきことだって言うよ。でも、自殺というのは言ってみれば落第だからね。赤点ギリギリでもいいから、卒業して欲しかったな。……大学の時だって(出席日数とか)ギリギリだったでしょ? 君は(笑)

最後までこんなに心配させやがって、ホントに君はヒドイ奴だ。ちゃんと「自殺なんかしたら許さんよ」って言ってたはずなのに、いっつも人の話なんか聞いてないんだから。

……だけど、ったく、仕方ない……僕は君を許すよ。だから、少しでも早く、君自身の課題から卒業してくれよ。ダメだよ、暗い所をうろうろしてちゃ。

 


'00.12.24
かけがえのない日々に……(了)

僕が君のところに行く事になるまで、どれほどの時間があるかは判らない。だけど、次に会ったら、君は幽界や霊界の話を、僕はこの世の体験談を、いろいろと話そう。昔、出会った頃のように、朝になるまで……いや、今度は本当に時間を気にしなくて良いから、何時間でも、何日でも、飽きるまで。きっと、あの頃よりずっと楽しいはずだよ。

その時まで、しばらくのお別れだね。名残惜しいけど、仕方がないね。

さようなら、僕の大切な友達、大好きな友達。たくさんの思い出を、ありがとう。さようなら、またいつか、必ず会おう。

そして、また、あの頃のように、いろんな話をしよう。

 

後日談

それから三カ月ほど後のこと。……そこは薄汚く古ぼけた焼肉屋。狭い店内には僕ら以外のお客さんは誰もいないようです。小さな二人掛けの席には僕と……彼(Mさん)が! そうだ、Mさんは焼肉が好きだって言ってたよなぁ、一緒に食べたことはなかったけど(^^;。そして今日も、焼肉屋にはいるものの、テーブルにはなぜか水だけ。

彼は今まで見たことのないようなスッキリした顔。以前の、どこか濁ったような感じが払拭され、別人かと見まごうほど顔付きが変わっていますが、間違いなくMさん本人でした。

また会えた事が嬉しくて嬉しくて、積もる話をあれこれしたような気はするんですが、残念ながら何を話したのかは覚えていません。いや、本当にあれこれ話したのかさえ定かではありません。が、彼が最後にこんなことを言ったのだけは、確かに覚えています。

「心配かけてごめんね。もう、大丈夫だよ」

以前の彼とは見違えるほど朗らかに、そして、ちょっとだけ申しわけなさそうに、そう言ったかと思うと、いつの間にか彼はいなくなっていました。

……そこで目が覚めました。夢だったのです。しかし、夢だったと分かっても、Mさんと会ったという感覚は不思議と消えませんでした。あれはただの夢じゃない。霊界のどこかで本当に彼と会ったのだ、と……。彼は、この世にいたころに苦しんだ精神病の影響と、死の直後の迷いから脱したことを知らせに来てくれたのだと。なぜだか、そんな確信があるのです。
('04.12.28記す)

 


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