心霊学研究所
『欧米心霊旅行記』浅野和三郎著
('02.03.16登録)

第十一信 ボストンにおける心霊実験(2)
実験の準備ならびにマージャリィの特色


 

 私のために、クランドン博士とキアノン夫人が今回準備しておいてくれた実験は、予想以上に大がかりなものでした。まず驚いたのは、アメリカが有する最も有力な霊媒を、三人までも招集しておいてくれたことでした。主人役のマージャリィ(クランドン夫人)を筆頭に、直接談話現象の霊媒として世界的名声を馳せつつある、デトロイト市のヴァリアンタイン。この人がわざわざボストンに呼び寄せられていたのです。これは私にとって本当に願ってもない成り行きで、この人一人の実験のために、ヨーロッパからわざわざアメリカまで出かける熱心な人も少なくないのです。なおヴァリアンタインの他に実験のプログラムに入れてあったのは、リッツェルマン夫人という人で、これはハーパードのケンブリッジに住む、比較的新進の霊媒ですが、その能力はそろそろ識者たちに認められ、これからを非常に有望視されています。

 このように霊媒を三人も集めたのは、私のために、短い日程の間に、なるべく大きな収穫をあげさせようという好意からでもありますが、それ以外にも大きな理由があるのです。つまり三人がかりで、一つの大切な実験、いわゆる十字通信《close correspondence》を行わせようとの計画なのでした。その計画がいかに前代未聞の好成績をあげたかは、のちほど詳しく述べます。

 霊媒がこのように豊富だった上に、有名な立会人をたくさん集めておいてくれたのは、重ね重ね私にとって有り難いことでした。心霊実験に対しては、とにかくまだ難癖を付けたがる人が多く、たった一人や二人の立ち会いでは、なかなか信用してくれません。「あいつまんまといっぱい喰わされやがった」よくそういう陰口を耳にします。私なども、その点で今までどれだけ苦い経験をさせられたか知れません。クランドン博士は、さすがにこの道の苦労人だけあって、深くこの点に注意を払って、第一にハーバードのスミス大学の心理学教授ロジャース博士、ならびに助教授二人に立会人をお願いし、さらにニ三の実験材料をも提供させました。言うまでもなく教授はつい最近、心霊現象の研究に興味を持つようになったというだけです。従って完全に冷静、公平な学者としての態度で今回の実験に臨んだのですから、その批判は本当に尊重する価値があります。なお同教授のほかに立会人となってくれたのは、ニューヨークの心霊家キアノン判事、ならびに夫人、ボストン市のリチャードソン博士、ブラウン博士など約十名でした。

 こんなところで十一月十七、十八日の両夜において行われた心霊実験に関する予備知識は、ほぼ十分かと思いますが、ただ念のために、マージャリィの霊媒現象について何もご存じない方のために、ここに簡単にその特長を申しあげておく事にしましょう。

 まずはマージャリィという霊媒の、もっとも特徴的なのは、
   その現象の種類がいかにも特徴的なこと
です。多くの霊媒は、たいてい一種類か、せいぜい二種類ぐらいの現象に限られているのですが、マージャリィの能力は実に多種多様で、テーブル浮揚、自動書記、直接談話、半物質化、物品移動、重量操作、指紋作製、楽器発停、その他数種の現象が臨機応変に発生するのです。この調子で進んだら、今後なおいかなる現象が起こるか、はかり知れないものがあります。それと言うのも、つまり、霊媒ならびにその支持者たちが、いかにも研究的、進歩的にできあがっていて、必要に応じていくらでも新しい現象の開発に努力することで、しかもその一つ一つの現象が決して粗製濫造的ではなく、どの一つを取って見ても、優に一流のものと分類する価値があるのだから素晴らしいのです。この点マージャリィが、世界の心霊界に勇名を馳せるゆえんです。

 マージャリィの第二の特色は、
   あくまでも科学的実験によって、事実の確立に努力すること
で、その知識欲、学問欲の旺盛なことは、まさに感嘆に値します。彼女は真理を確立するためには、いかなる拘束にも服し、またいかなる検査にも応じます。クランドン博士邱の三階の実験室を覗いてみると、いろいろな詐術防止装置がそろっているのには、誰もが呆れるほどです。ガラス製の霊媒監禁箱、巧妙な手枷《てかせ》、足枷《あしかせ》、首枷《くびかせ》、口枷《くちかせ》、----そんなものは監獄にだってありません。これはつまり、一切の詐術を防止するため必要な装置に手間と費用とを惜しまず、みずから進んでこれを作らせ、みずから進んでこれを使用するといったことで、その態度が本当に立派なこと、その考え方が本当に感心なことは、一度でも現場をみた人々の誰もが感嘆するところです。マージャリィの霊媒現象に対して、今まで難癖を付けたのは、奇術師のフーディーニとか、ハーバードのマクドーガル教授とか、いずれも不純な動機に左右された不幸な人たちで、今日それらの人たちは、多くの識者からことごとく指弾されつつあります。霊媒に対する世間の詐術師呼ばわりも、ずいぶん長いこと続いていますが、マージャリィに対しては、少なくともそれはもはや通用しないように見受けられます。

 最後に、マージャリィの背後に控えている守護霊《Control》に関して、少しだけ触れておきたいと思います。いかなる霊媒にも、必ず単数または複数の守護霊と称するものが(訳注:ここでは守護霊と言っているが Control とは支配霊のこと。「霊媒にも」と言っていることからGuardian Spirit という意味の守護霊ではない事が判る。本書の時点ではまだ用語の定義もしっかりしていなかったのだろう)付いていますが、マージャリィには
   十七年前に汽車の転覆で不慮の死を遂げた、亡兄のウォルターの霊
と称する者が付いており、なおその他にもニ三の補助霊が付いています。潜在意識説、二重人格説で全ての心霊現象を解釈しようとする学者たちは、あくまで守護霊の存在を無視し、そんなものは霊媒自身の単なる潜在意識、またはその人格が分裂した一部に過ぎないなどと主張しますが、どうもウォルターの場合には、それではとうてい説明できないいくつもの現象が現われ、ウォルターの肉体は亡んだが、その生前の意識(個性)は依然として今日も存在している、と断定せねばならぬようです。死後に個性が存続するかどうかという問題は、実に人生においてもっとも重く、もっとも重要な大問題で、今まで心霊研究家の大部分が全力をこれに注ぎましたが、この問題に対して最後の動かぬ証拠を与えたのは、まさしくマージャリィの霊媒現象であると思います。それに関する実験は後ほど詳しく述べますが、どうか彼女の背後にウォルターと称する守護霊が存在することを覚えておいてください。

 前置きはしばらくこの辺で打ち切りとして、これから実験の記事に移りますが、二晩つづきの実験をダラダラ書いた日には、あまりにもゴチャゴチャして、しかも重複箇所が出てきますから、ここでは順序を追わず、実験の性質によって分類することにします。種類から言うと私の行なった実験は、おおよそ次の六種類に分けることができます。つまり(一)直接談話現象、(二)重量操作現象、(三)楽器発停現象、(四)物品移動現象、(五)指紋作製、(六)十字通信、です。

 


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