心霊学研究所
『欧米心霊旅行記』浅野和三郎著
('02.08.03登録)

第十一信 ボストンにおける心霊実験(3)
直接談話現象


 

 直接談話現象というのはご存じの通り、霊媒の発声器官を使わず直接空中から音声を発する現象で、その種の霊媒が次第に増えつつあることは拙著『心霊講座』にも述べてある通りです。日本ではわずかに不完全な朝鮮の霊媒によって、その一端を窺い知るに過ぎませんが、今回私が欧米各地で実地調査した結果、予想以上にこの種の霊媒が多いことが判りました。私が実験しただけでも、優秀なのが六七人はいました。なかでもボストンでは、マージャリィとヴァリアンタインの二大霊媒が同席の上、お互いに協力してこの現象の作製に当ったのですから、その成績は非常に見事でした。私の手帖から要点を抜粋します。

 「十七日午後八時三十分、一同実験室に入って着席。マージャリィは正面の小テーブルを前にして座り、その左側にヴァリアンタイン、それから浅野、ロジャース博士、キアノン判事、キアノン夫人、ジョンソン博士、クランドン博士などの順序で、テーブルを囲んで座る。列の外にも数人加わる。……赤燈に変わるや否や、守護霊のウォルターの口笛がまず空中に起こる。霊媒の口のあたりから約三フィートないし四フィートの距離。続いて「ハアロー!」と、やや錆びのある元気の良い、青年らしい声で呼びかける。列席者の大部分は、懇意な人間に対するのと全く同じ気持ちで、ウォルターと挨拶を交換する。私は初対面なので、多少丁寧に、「ウォルターさん、お目にかかるのは今晩が初めてですが、雑誌や書物の上で、あなたの事はよく存じています。私のために実験に応じてくださって、誠にありがたく思います」「イヤよくお出掛けくださいました。今晩は日本人の霊魂も、数人ここに来ることになっています」まるで生きたアメリカの青年とやりとりするのと、少しも変わりません。ウォルターがこのように活動している間に、いつしかマージャリーは深い入神状態に入り、軽いいびきが聞こえます。

 ヴァリアンタインは平常の通り談笑自在。

 そのうちヴァリアンタインの守護霊たちも大きな声で、空中から騒ぎ出します。「日本人のスピリットたちが近づきつつあります」

 これを要するに、守護霊たちは、直接談話で、自由に列席者と会話し、実験に関する必要な注意を与えたり、時には冗談なども言うのです。ことにウォルターの霊魂は、機才《きさい》縦横という感じで、ちょいちょいジョークを言って、われわれを笑わせるのでした。つまり直接談話現象は、むしろ実験室における、あちらとの通信機関として、すっかり実用化しているのです。

 日本人の霊魂が、ラッパを使って、空中から日本語で話しかけたのは物品移動、十字通信などの実験が済んでからでした。テーブルのかたわらに置いてあったアルミのラッパ(長さ2フィート5インチ位)が、いつしかひとりでに空中に舞い上がり、まず軽く私の方に二三回触れました。これは私に対する挨拶のつもりなのです。私はさっそく日本語で「どなたですか?」と質問すると、その返答はいかにも低い声である上、ラッパを通して発声されるので、頗る不明瞭を免れませんでしたが、数回聞き返した結果、「オサナミ」「オホサカ」「アリガトウ」「サヨナラ」の四語だけ、はっきり聞き取ることができました。つまり大阪に住んでおられた、故長南雄吉氏の霊魂が、私に向かって試みた霊界通信であると推定されるのですが、意味の通信が不十分であったのは残念でした。直接談話現象は、まだ慣れない霊魂にとって、なかなか困難な仕事らしく、通例数十回の練習を重ねた上でなければ、ラッパなしで、すらすら喋ることは不可能のようです。たった一回の実験で、ともかくこれだけの日本語を聞き取ることができたのは、まず上出来の部類に属しましょう。

 翌十八日の晩には、私はさらに直接談話現象そのものに対する、厳密な実験を行ないました。すなわち空中に聞こえる声音が、全然霊媒の発声器官を使用しない、独立的存在であることの試験です。立会人は十七日の晩と同様です。手帖から抜粋します。

 「……マージャリーは赤燈の下で、例の口枷《くちかせ》を付ける、それはガラス製のもので、ゴム管で試験管につながり、少しでも発声すれば、直ちに試験管に影響する巧妙な装置である。実験に先立ち、私とロジャース博士が、再三その口枷を試みたが、とうてい発声不可能であることを確かめた。間もなくウォルターの声が空中に起こる。私が日本語で「一、二、三」と唱えると、、ウォルターの声が「イチ、ニ、サン」と唱え、順次「四、五、六」「七、八、九」などを試みる。マージャリーの口には、依然として口枷が立派についているにかかわらず、ウォルターの声は、何の影響をも受けず平気で空中に聞こえる。その声音が独立的存在物であることが、これで徹底的に証明された訳である」

 


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