心霊学研究所
『欧米心霊旅行記』浅野和三郎著
('03.01.01登録)
第十一信 ボストンにおける心霊実験(6)
指紋作製現象
この現象は、マージャリィの霊媒現象の中で最も大切なものであるだけでなく、世界の心霊実験の中でも唯一無二のもので、近代心霊史上に新しい記録を作るものです。 ウォルターの霊が、歯科医の使用するロウに、その親指の指紋を残すことを始めたのは一昨年一九二六年の八月からで、現在にいたるまでに、約百五六十個を作成しました(写真参照)。それらの指紋を専門家に検査させると、すべて同一人物のものであるが、ただある指紋は陽画であり、またある指紋は陰画であり、またある指紋は鏡像(つまり左右反転しているが、線や区切りの末端までピッタリと一致しているもの)であり、つまり人間ワザでは、とうてい作製不可能なところがあるのです。 仮にそのウォルターの指紋と、霊媒その他立会人の指紋とを比較してみますと、ことごとく相違していますが、ただ血のつながりのあるマージャリィとは四割五分ほど類似し、またその母親とは七割ほど似ていることが分かります。これは指紋研究の上では普通の事柄だそうです。 ところで、これらウォルターの霊によって作製されつつある指紋が、ウォルターの生前の指紋とまったく同一であるという驚くべき事実が、昨年になって立証されたということは、本当にうれしい話です。今をさかのぼること十七年前、すなわち一九一二年、ウォルターが最後の汽車旅行に出かけるにあたり、彼は自分のカミソリで髭を剃りました。そのカミソリはそのままサックに収められ、それ以来誰の手に触れられることもなく、トランクの中にしまわれていましたが、さる一九二七年五月、ウォルターの母親がそれを取り出し、専門家に依頼して指紋をとらせますと、その柄にウォルターの指紋が付いていたのです。生前ウォルターがカミソリの柄に残した指紋と、現在ウォルターの霊と名のる者が次々にロウの上に印する指紋とがピタリと一致しているのですから、大変なことなのです。この前代未聞の“現存する事実”が何を物語るかは、熱心な研究者がよくよく考えねばならぬ点でなくて何だというのでしょう! [注]ウォルターの指紋の鑑定に当ったのはワシントン、ボストン、ベルリン、ミューニッヒ、ヴィエナの諸警察、ならびにロンドンのスコットランド・ヤード等で、いずれも証明書が来ています。 これから私の実験の概要を説明します。それは十八日午後九時から始まって、約十五分間で終りました。私を助けて実験に立ち会ってくれたのは、ボストンのブラウン博士でした。私は三個のロウのかたまりにしるしを付けてポケットに入れ、実験室に入りました。テーブル上にはロウを軟らかくするための熱湯、そして後でロウを固めるための冷水を準備し、二個の容器を置きました。 赤燈の下でマージャリーが入神状態に入ると同時に、ウォルターの声が空中におこり、実験に関する注意を与えました。私はその注意にしたがい、ポケットからロウを出して、熱湯の入った容器の中にそれを入れました。一分ほどでロウが相当軟らかくなったのを見はからい、ウォルターみずからこれを湯の中から取り出し、テーブル上で親指の指紋を作った上で、今度はウォルターみずからこれを冷水に入れます。そうした作業の際に、物質化した彼の指の端が、赤燈の光で白く見えました。やがて「もうほとんど固まったようだ」と言いながら、彼みずから冷水の容器からロウを取り出して、私に渡してくれました。同じことを三回繰り返したのですが、最後の時には、湯が少し冷めてきたのでロウが十分に融けず「固いから二つ押しておく」と言って、グイグイと二度ほど親指を押しつけました。 何もかもが極めて事務的で、死者の霊魂の作業というよりも、むしろ一人の気軽な青年が作業をしているような感じでした。この間私たちが霊媒の左右の手をしっかり握っていたことは言うまでもありません。 実験後に、その指紋の検査をハーバード大学のロージャース博士に依頼したところ、同教授は検査の結果、まったくウォルター生前の指紋と相違ない旨を証言されました。ちなみにその三個のロウの指紋は、私が持って日本に帰りました。 |